東日本大震災からまもなく10年。本会の森山理事長が心の復興への想いを投稿、掲載されました。

2021年2月10日 河北新報

心の復興 今後が正念場
傾聴を通じ被災者ケア

NPO法人仙台傾聴の会は傾聴のボランティア団体です。傾聴とは単に相手の話を聞くことではなく、相手の立場に立って話をありのままに「聴く」ことです。心の奥にある苦しさ、つらさを受け止め、話に耳を傾けることで、相手の心の不安を軽減し、その人なりの判断や納得に至ることを支援する心のケアです。
 東日本大震災の発生直後、当会は宮城県医師会の要請を受け、名取、岩沼両市の避難所で支援活動をしました。その後も、各地の仮設住宅や復興住宅の集会所で茶話会や傾聴カフェを開き、肉親や自宅を失った被災者の悲しさ、つらさに寄り添ってきました。震災から間もなく10年です。それは当会が被災者を支援してきた期間でもあります。
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 阪神大震災から25年の昨年、ある精神科医を取り上げた実話を基にしたテレビドラマを見ました。震災時、自らも被災したこの男性医師は、被災者の精神的な痛手を和らげようと救護所や避難所を回り、医療活動を続けました。
 5年後、39歳の医師はがんを患い亡くなりました。最期が近づいたある日、医師は「心のケアって何か、分かった。誰も独りぼっちにさせへん、てことや」と言いました。この言葉を聞き、傾聴挿動はまさに、被災者を独りぼっちにさせないことだと思いました。
 印象的な経験があります。震災直後、名取市のある避難所でした。私は50代とみられる男性のそばに、しばらく座っていました。「そろそろ失礼しますね」と声を掛けると、「もう少しいてください」と言われたのです。心が通じたと感じた瞬間でした。
 被災直後、話をするどころではない方が、少なくなかったのです。この男性もそうだったのでしょう。そんな時、そばにいることで 「相手の心に寄り添う」ことができるのです。それでお互いの気持ちが通じます。これが「独りぼっちにさせない」ことでしょう。傾聴では「情緒一体感の共有」と呼んでいます。そばに座っていることで、大変な状況を感じながら、相手の思いを受け止めるのです。
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 震災から10年。区切りと言われますが、「心の復興」に区切りはありません。昨年3月、本紙朝刊 「声の交差点」に「震災9年 よみがえる記憶」という投稿が掲載されました。「9年を経過した今、鮮明にあの津波を思い出すようになった」とあります。当会へのある相談者も「これまで震災の事は話せないと感じてきましたが、9年目を迎えたころから話してみようと思った」と話しました。
 思い出せるようになってから、話せるようになってから、心の復興が始まると捉えるべきでしょう。一方で、今も思い出せない、話せない被災者はどのくらいいるのか。心の復興は、これからが正念場ではないでしょうか。
 傾聴を通じ、肌で感じた被災者の心のケアの難しさ、大切さを周囲に伝えていかなければなりません。そのために、一人でも多くの方に傾聴の活動を知ってほしいと願っています。

2021年2月9日 読売新聞

話受け止め 心を軽く

 相手の話に耳を傾け、ありのままに受け止める傾聴ボランティアをしています。人は話すことで心が軽くなり、気持ちが整理できます。東日本大震災の発生から間もない2011年3月下句から避難所を訪ねました。その後は仮設住宅、災害公営住宅(復興住宅)と場所を移して活動してきました。
 NPO法人を設立したのは震災前の2008年4月です。子育てが一段落した後、東北福祉大学で心理学を学びました。当時は「傾聴」がまだ知られていませんでした。そこで学んだことを生かそうと、高齢者施設などに通って話を聞いてきました。
 震災直後の避難所では、家族を亡くしたり、行方がわからなかったりして、話を聞ける状態ではない被災者も少なくありませんでした。そばに座って、手を握ったり、肩に手を置いたりして、無理に話を聞かないようにしました。「あなたのことを心配している人がいる」と伝わればと思いました。
 同居していた長男を津波で失い、長男の嫁から別居を提案されて大粒の涙を流している高齢の女性がいました。近所の人を亡くし、泣きすぎて使えるハンカチがなくなってしまったという女性もいました。私たちは物事そのものを解決することはできませんが、話を受け止めることで少しでも気持ちを和らげてほしいと思って活動しています。
 今は茶話会や傾聴サロンを開き、被災者に限らず地域住民が話をできる場を作っています。新型コロナウイルスの感染予防で、間隔を空け、マスクを着用しながら開催しています。参加者が楽しみにしていた歌を歌うことはできなくなりました。
 震災から10年になりますが、今になってようやく話ができるようになったという被災者もいます。新型コロナの影響で人と人との交流が減って孤独を感じている人が増えました。失業や自殺、ひきこもりも深刻です。心の問題はむしろこれからが重要です。行政が行っている電話相談の中には、なかなかつながらないという声も聞きます。震災から10年で区切りにせず、これからもしっかり向き合っていきたいと思います。
   (聞き手・傍田光路)