震災から10年「今、私たちに出来る事」 記念誌発行にあたって

NPO法人 仙台傾聴の会代表理事 森山英子

 この度、震災から10年の記念誌「聴き書き」を発行するにあたり、被災者の皆様方に協力頂き大変有難うございます。さらに関係各位の皆様方から多数原稿をお寄せいただき感謝いたします。

 東日本大震災発生直後、当会は、
 3月下旬から宮城県医師会の依頼を頂き、仙台市、名取市、岩沼市の避難所で、「傾聴活動」を実施しました。その後、仮設住宅での「お茶会」「ランチ会」「季節ごとのイベント」「男性中心のお茶会」を実施するなど、当会はこの10年間、被災者支援に向けて歩み、被災者との信頼関係の構築に尽力してまいりました。
 また、宮城県内各被災地での「傾聴ボランティア養成講座」を行政、社会福祉協議会など要請により実施してきました。仙台市では年2回、名取市、岩沼市では隔年で開催し、これまで29期となり、その他県内外からの要請も含めこれまで1485名の方が受講されています。この受講されたなかから多くの被災された方が、自分も誰かの役に立ちたいと傾聴ボランティアとして活動されています。被災者の自立に貢献できたと考えています。また、「傾聴基本講座」として宮城県、山形県、福島県、岩手県、千葉県、熊本県等で開催し、「傾聴の基本」を3274名の方々へ伝えてまいりました。
 平成29年11月、宮城県亘理町公民館で開催の「傾聴ボランティア養成講座には、当時の復興大臣の吉野氏が視察に来られました。講座の中にも入って頂き、「傾聴」を体験して頂きました。福鳥出身の大臣だからこそ実現した訪問だったと感じていますが、その後平成30年7月には復興大臣から感謝状も頂き、当会が実施している被災者支援に対しての大きな励みになりました。
 2年前に名取市のある男性からいただいた年賀状に、「避難所からずっと関わって、心の支えになって頂きありがとう。待ちに待った故郷での生活、心機一転前向きに生きたい」と記されていました。この葉書により、私たちの活動は報われたと感じました。

復興住宅での傾聴カフェでは、
 仮設住宅から転居された被災者は、「終の棲家」と捉えており、当会が実施した被災者アンケート調査では、皆さん近隣の関係づくりを大事にしたい、という声が最も多く出ておりました。そこで、集う場所が必要であると感じて、現在も各傾聴カフェを継続して毎月関催しています。
 傾聴カフェに9年目にして初めて参加された方が、「これまでは震災について話す気持ちにはなれなかった。今年になって漸く出かけて話してみよう」と思われ、当日の箱庭カフェに参加して心が落ち着いたと笑顔で話されていました。このような方がまだまだいらっしゃると思われます。 また、幼稚園児の子供を亡くしたある女性の方は、精神的にダメージを受けて立ち直ることが出来ない状況だそうですが、それでも何とか転々としながらも仕事を続けてこられ、「頑張って生きてきた。とても苦しい」と訴えています。このような方もいらっしゃるということです。
 まだ10年なのです。「こころの復興」はまだ途中です。当会は、「心のケア」がまだまだ必要だと感じています。今後も引き続き「寄り添っていきたい|と考えています。
 コミュニティー形成には、各団体の協力が必要であると思われます。多様な団体がそれぞれの方法で行うことで参加者の選択の幅が広がり、孤立防止に繋がります。
 
 阪神淡路大震災から25年になる2020年、NHKテレビで『心の傷を癒すということ』という、精神科医安克昌氏の25年前の記録をもとに製作されたドラマが放送されました。
 大震災のとき、安氏は自らも被災しながら、疲労困憊の中、被災者の精神的な痛手を少しでも和らげようと救護所や避難所を回り、必死に働き続けた。それから5年後、安氏はがんを発症し、まだ39歳の若さで亡くなった。その最期の日々のある場面で、車椅子にのって母親、妻と散歩しているとき、彼は「こころのケアって何か、わかった」。それは「誰もひとりぼっちにさせへん、てことや」と。
 とてつもない不幸に見舞われたり、想像を絶するような経験を強いられたりする人がいる。その横にたたずむ者には何も出来ないかも知れないが、そこに一緒にたたずんでいることが大事である。「ひとりぼっちにさせへん」これは特別に精神科医だから発した言葉ではない。一人の人間が一人の心の痛手を負った人に送った言葉である。と結ばれた実録ドラマです。

 まさに、東日本大震災の避難所では当会も 、
 「情緒的一体感の共有」に徹して、ただそばに座らせて頂き、相手の思いを受けとめ、大変な状況をお互いに感じながら、そばに寄り添うことをしてきまLた。
 ある避難所では、一人の男性のそばにしばらく座らせて頂き、「そろそろ失礼しますね」と声をかけました。すると「もう少しいてください」と言われたのです。私たちの思いは通じた。言葉ではない、人間としてお互いに思いが通じていると感じた瞬間でした。まさに安医師の「ひとりぼっちにさせへん」ということに繋がります。
 私は、この安氏のドラマで「相手の心に寄り添うこと」の重要性を強く感じました。あの避難所のこととかさねあわせて、涙なしでは見られませんでした。
 私たちが掲げている「あなたの心に寄り添う」仙台傾聴の会としての活動の重要性を実感し、また、この「寄り添う心」がいかに大事であるか、この精神でこの先の10年・20年孤立する方々へ、寄り添う活動をさらに重ねていきたいと考えています。

 「自死予防」を目指して当会が活動を開始して12年。震災から10年の節目の今年は、コロナ禍の中で自死者が増加している現状を踏まえ、原点に立ち返り、対面での寄り添いが出来ない部分を電話相談体制を充実させ対応しています。
 引きこもりも社会問題になっていますが、「その家族をひとりぼっちにさせない」という観点で支えることも考えていかなければならないと思います。

 今後もこの10年で学んだことを活かしながら、災害時の「心のケア」の重要性を伝えていきたい。そのために一人でも多くの人に「傾聴」を知って頂き、支えあう社会の実現に少しでも近付き、地域の皆様方が安心して生きていける社会の実現を日指していきたい、と考えています。

目次

第一部 震災から10年に寄せて
 一人ひとりの震災10年物語-これまでとこれから-
 傾聴の会10年に寄せて   
 生きているだけでいい 
 「心の復興に寄せて」   
 つながりデザインへの気づきを与えてれた「傾聴カフェ」
 新聞発行・閖上に感謝   
 震災から10年をふりかえって 
 10年の経験をこれからの地域精神保健福祉に引き継ぐ
 震災から10年の節目を迎えて  
 震災から10年、あなたの心に寄り添う」発刊によせて
 「震災から10年」ボランティアに参加して
 やさしさって何だろう    
第二部
 被災者からの「聴き書き」
  16名の方々のお話を記録、編集しました。
   ほかに4名から寄稿をいただきました。
 震災から10年に思う
   仙台傾聴の会会員の寄稿
今、復興住宅では・・・
年表・活動記録